氷の女王に愛の手を

俺にとって先生は、ただのコーチなんかじゃない。


一種の心の支えでもあるのだ。


「考え直してはくれませんか?」


先生は悲しそうな眼差しで俺を一瞥すると、ふいに視線を外して窓の風景を見詰め始める。


「私には夢があってね」


「夢、ですか?」


期待したものとは違う言葉が飛び出して戸惑うが、先生は構わず続ける。


「私は現役時代オリンピックに後一歩届かなくてね。それがどうして悔しくて、現役を引退してもずっと引きずっていた」


先生から直接、現役時代の話は初めて聞く。


当時の先生の活躍は周りの関係者から聞いていたけど、それは表面向きの成績だけ。


心情までは、当の本人しかわからない。


「よくある話ですよ。叶わなかった夢を誰かに受け継いでもらいたくて、こうしてコーチになった。お恥ずかしい限りです」
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