氷の女王に愛の手を
「いや、すごくいい夢だと思います」
「ありがとう。でも私はもう歳だ。それに夢の方もミューさんならきっと叶えてくれるでしょう」
先生の教え子は数多いが、オリンピックに出場した選手はまだいない。
だが数多くの選手を指導してきた先生がそこまで断言するのだ。
実力も実績もある美優なら、ほぼ確実にオリンピックに出場できるだろう。
それどころか、メダルを取ることだって夢じゃない。
先生の夢は叶う。つまり未練はないということ。
これ以上の説得は、俺には無理。
黙って俯く。沈黙が耳を刺す。
先生に世話になっておきながら、俺はなにも成果を残せなかった。
一度も国際大会で優勝できなかったし、先生の夢であるオリンピック出場も叶いそうにない。
俺は先生の最後の教え子なのに、先生のためになにも出来ない。