氷の女王に愛の手を
ジャンプ
スケート場は俺の家から自転車で十分ほどの距離しかない。
十時過ぎだというのに、リンクにはすでに何人かの人が滑っていて、カップルで手を取りながら滑っている人や、親子連れで子供に滑り方を教えている親などが見受けられる。
誰もがたどたどしい滑りをしているなか、ただ一人別次元の滑りをしている人物がいた。
もちろん美優。
ポニーテールにした髪が風になびいて、リンクにはエッジで削られた軌跡が作られていく。
人が少なくて良かった。周りは美優に気づいているが、特にこれといって変な行動を起こしていない。
どちらかというと「なんでミューがここに?」といった感じで、鳩が豆鉄砲を喰らっているようだ。
スケート靴に履き替えて、俺もリンクに足を進める。
いつも通り、他のスケート場よりも氷が硬い。
人によっては嫌がる選手もいるが、小さい時からここを使っている俺や美優にとっては、この感触が一番滑りやすい。