氷の女王に愛の手を

白々しい蛍光灯が瞳に焼きつき、目を細めた。


こんなんで、スペイン奇想曲を演じられるのかな?


「そういや、美優はプログラム決まった? 新しいコーチだから大変だろ」


体を起こして美優に問う。


日本で調整していきたいと望む美優と、子供が生まれてアメリカに永住したいコーチの間に亀裂が走り、結局美優は例のアメリカ人コーチと師弟関係を解消。


そこで日本語が通じる新たなロシア人コーチと手を組んだ。


無論、そのコーチもかなりのやり手。現役時代は世界選手権で優勝した経歴をもつ優れたコーチだ。


「ううん、全然。でも日本語が通じるから、やりやすいったらありゃしないっすよ」


コーチとの問題はないようだ。美優は英語が苦手だから、前のコーチとは色々と大変だったと聞いている。


「そっか。でもやりたいことはあるだろ? この曲がいいとか、構成はこんな感じがいいとかさ」


目の前のクッキーに手を伸ばす。おばさんのお菓子は天下逸品。美味である。


「うーん、まだ完全には決まってないんだけどね」
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