氷の女王に愛の手を
自分に向けられる視線を感じたのか、大介がこちらに気づく。
一瞬俺と視線が合ったがすぐに逸らし、羽生さんへ視線を移す。
そしてリンクサイドへ足を進めた。
「こんにちは羽生さん。それとタクさんも、久しぶりですね」
「本当だな。確か最後に会ったのは……先々シーズンの全日本ジュニアだっけ? 12月の全日本には体調不良で出れなかったんだってな。お前と戦いたかったけど残念だったよ」
「俺も残念でした。だけど世界ジュニアで優勝しましたし、客観的にはタクさんより僕の方が上、ってことになりますから特に気にしてませんけどね」
「そう、だな。ははは……」
二年ぶりに会ったというのに、この毒舌は今なお健在のようだ。
「ところで大介はフリップの修正をしてないみたいだけど、このまま修正しないまま行くのか?」
「俺には四回転がありますからね。フリップで多少減点されても問題ないんです。エッジ修正しなくていい誰かさんが羨ましいですよ。ほんと」
皮肉たっぷりに言い切る大介。彼の背後には禍々しいオーラが漂っている。