兄貴の想い

やっぱり父はいつもより早く帰ってきた。


玄関が開く音で一瞬空気が重くなった。


ヒデはその瞬間
『はぁ〜』
と深いため息をついた。

父は帰って来るなり、ヒデを自分の部屋に呼び出した。


何を話していたかはわからないが、怒鳴るような声は聞こえなかったので少し安心した。



数分してヒデと父は静かに部屋から出てきた。


そして、私とヒデをソファーに座らせて話し出した。


『ミサ、痛かったか?見せてみろ。』


私はソッと手を差し出した。


父は私の手を軽く見て言った。


『ケガは事故だからしょうがないな。あとは早く治るように病院に通わなきゃダメだぞ。』


少し間をおいて父は続けた。


『畑にはもう行っちゃいけないよ。』


父の話はそれで終わった。

怒られると思っていた私はちょっと拍子抜けしてしまった。


それからしばらくして父は畑を辞めてしまった。
< 11 / 73 >

この作品をシェア

pagetop