ハニー・キス
序章・朝焼け
朝焼けが高層ビルやホテルの外壁を乱反射し、一日の始まりを告げ、街が目覚てゆく。

車の排気ガスが塗り替え始め、街も人も騒音の中に取り込まれようとしていた。

昨日まで続いた台風は、どこか生臭いニオイを残して過ぎ去り、都会はあっという間に、自らを染め、人を飲み込んで動いていく。


舗装されつくしたアスファルトの道を踏むたび、濁流にのまれ流される枝葉ような虚空感に苛まれる。


こういう灰色い世界が、俺は好きじゃない。


胸焼けしてるような、どこか晴れない気持ちを引きずりながら、足だけが早くなっていった。



少しすれば通勤ラッシュの時間が来る。


この大通りには、働き蟻のように黒いスーツに身を纏った人々が波みたいにごったがえすだろう、急に立ち止まった自分を誰かが避け、流れていくのを感じながら、てのひらの中にある冷たいものを握りしめた。



画質が悪い。



それでいて、使いにくいのに捨てられないカメラ。


それは、ダサさ満点のデジカメだった……。
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