君色 **空色**
「ヒヨコ……」


すぐに辰にいは私を追いかけて、部屋の前までやってきていた


「………ヒヨコって呼ばないでよ」


こみ上げる涙をこらえながら、私は弱々しい抵抗を彼に見せた

私の言葉に何を思ったのか、辰にいは黙ったまま

ただ『コトン』と何かがドアにぶつかったような音が小さく響いただけ

その沈黙に先に耐えられなくなったのは、やっぱり私の方だった


「……ど…して………くれ……の?」

「え?」


声を発すれば、涙が出てきそうになる

それを必死でこらえながら、私は彼に言葉を紡いでいく


「……どうして言ってくれなかったの?」


絞り出すようにそう言うと、私は堪えていた涙が一気に頬を伝っていくのを感じた


< 219 / 292 >

この作品をシェア

pagetop