君色 **空色**
「今日はここで良いや」


いつもなら駅まで送ってもらう私だけれど、今日はこの沈黙の中ずっと一緒にいるのは良くないと思い、彼の下宿するマンションまでやってくると私は手を離した


「大丈夫だから、ゆっくり休んで。おやすみなさい」


まるで自身に言うように私はそう言うと、足早に駅へと向かって行った

それから私はいつもと同じようにバイト先へ向かう

今の状態で頭が上手く回転するとは思えないけれど、突然休むわけにもいかない

なんとか解答に頼りつつ、塾講の仕事をこなし終えると、生徒の女の子が帰り際に突然私に「何かあげようか?」と尋ねてきた


「え??」

「なんか、先生今日ずっと唇触ってたから、お腹空いたのかと思って」


そう言われて、私は驚いて自分を見つめた

そう言われてみれば、唇を触っていた気もする……


「だ、大丈夫!!ってか、もう帰るだけだからね。生徒に食べ物恵んでもらうとか悲しすぎるって」


笑いながら私がそう言うと、彼女も笑って「んじゃ、さようなら!」と言って元気よく塾を出ていった


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