ロマンス@南国
 上京したばかりで、右も左も分からないまま、よく新宿や渋谷の街を歩いていた。


 秋田にある田舎町で高校時代まで過ごしたあたしにとって、東京は紛れもなく大都会だ。


 電車や地下鉄が複雑に入り組んでいたし、最初はどれに乗ったらどの場所に着くか分からずに、駅員などに聞いていた。


 それに当時勤め先だった銀座のクラブ<アイルヲ>で、あたしは一番指名が少なく、ママだった大貫玲子から、


「亜紀子さん、あなた指名が一番少ないわよ。もうちょっと頑張りなさい」
 

 と釘を刺すようにきつく言われていた。


 あたしは週七日のうち、五日間シフトが入っていて、後は自由気ままにやっていた。


 銀座にもまだ慣れず、あたしは新宿のワンルームマンションからも出られずに、


“あたしって夜のお仕事、向いてないのかしら?”


 と思っていた。


 新宿を歩いていると、AVのスカウトマンが白昼堂々と近付いてくる。


「ビデオに出てみない?お金たくさん入るよ」
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