ロマンス@南国
 あたしにとって、東京は一際居心地がいいのだった。


 田舎に帰れば、兄夫婦の子供で、すでに高校生になる甥と中学生の姪がいて、あたしはきっと冷やかされる。


 それにあたしは狭い町は嫌いなのだった。


 噂ばかりが頻(しき)りに飛び交うし、第一あたしはそういった場所にいたくない。


 あたしは他人から噂されるのを極度に嫌がっていた。


 元々プライドが高い方だし、返って田舎町の人間たちの方が都会地よりも下世話で、あたしはきっとそういった土地に馴染(なじ)まないのだろうと思う。


 あたしはよほどのことがない限り、郷里には帰らないつもりでいた。


 あたしは帰る場所を捨てていたのだ。


 未練も全然ないし、もう東京の水の方を飲み慣れている。


 あたしはタバコを吸い出した。


 先端の燃えた部分からは、紫煙が上がり出すのが見える。


 しばらくの間、あたしはタバコを吸い続けていた。
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