ロマンス@南国
 ウエイトレスがやってきて、


「ご注文は?」


 と訊いてきたので、あたしが写真を見せながらジェスチャーで伝える。


 あたしも喬もゆっくりと窓外の景色に目を移す。


 やはり南国だからだろう、ここはシャングリラ――いわゆる理想郷だった。


 人間同士が生きていても、互いにいがみ合うことが一切なく、平和な日々が続く楽園だ。


「亜紀子」


「何?」


「こののんびりペース味わえるの、今だけだよな?」


「ええ。日本に戻ればいつも通りになるわよ」


「今を楽しもうね」


「うん。そのつもり」


 あたしが頷き、喬をケータイに付いているカメラで撮り始めた。
< 59 / 119 >

この作品をシェア

pagetop