ロマンス@南国
けてしまうのである。


 これは加齢によるもので、あたしはそれ自体別に不自然だとも思わなかったし、力が抜けるのは逆にいいことだとすら思っていた。


 巷によくいる、常に気を張り続ける会社の社長さんは一体どこでガス抜きしてるのかなと思うことがある。


 酒か女か、それとも一際過激なドメスティックバイオレンスか?


 あたしの店にかつて毎晩のように来ていたお客さんの中に、品川の一等地で高見総合商社という会社をやっている社長さんがいた。


 高見賢四郎という男だ。


 高見は日本列島全体を覆う未曾有の不況下で、自身の給与もカットしながら、負債の補填(ほてん)をしていたらしい。


 どうやら高見は奥さんや子供に絶えず暴力を振るっているようで、家庭内が滅茶苦茶だったのだ。


 堪りかねた夫人と子供たちは区役所に駆け込み、離婚を申し立てた。


 第三者が間に入って、円満に離婚するという形を取り、実際高見の奥さんの千香子は書類上の手続きをし終え、後は判子を押すだけになっていた。
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