ロマンス@南国
 捺印すれば、離婚は無事成立である。


 ところが離婚を突きつけられた高見の方は離婚届に判を押さないどころか、振るう暴力はよりエスカレートし、酒量も大幅に増えていった。


 千香子や子供二人にも殴る蹴るの暴力を振るい続け、とうとう千香子は子供たちを連れて実家のある富山県の田舎町へと帰っていった。


 どうやら、千香子の両親も高見の性分を知っているらしく、


「もうあの人とは会わない方がいい」


 と言い、孫にまで危害を加え続けた婿を許す気はないようだった。


 高見は一人品川のマンションに取り残され、毎日そこから出勤し続けているようだ。


 あたしは高見からこの泣き言のようなものを聞いたとき、


“この人ダメね”


 と思っていた。


 第一、せっかく盛り上がっていた酒席が個人の愚痴や泣き言で台無しになる。


 それにあたしはこの高見という男を知っていた。
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