ロマンス@南国
「この人だったら、誰だって愛想尽かすわよね」と。


 あたしのように銀座という場所で長年水を飲み続けてきた人間は勘が鋭くなっている。


 あたしは別にこの高見がいろんなことを言おうが、「ああ」とか「ふーん」と頷いていて本気で相手しないし、実際人様の家庭の事情など知りたくもないのが本音なのだ。


 確かに「人の不幸は蜜の味」という一昔前流行った最低の文句もあるにはあったが……。


 それに年齢の割には人を見てきているあたしにとって、高見のような客は昔からいるにはいた。


 あたしが知っているだけでも、この手の人間は十本の指じゃ数え切れないぐらいいて、昼間は真面目に仕事をしているものの、夜になると豹変(ひょうへん)してしまうのだ。


 そしてあたしはこの手の人間に関して対応策も考え付いていた。


 それはまず手始めに一応一通り話を聞き、それが終わったら酒を少しずつ飲ませながら、同調したような空気を作り出すのだ。


 相手は当然ながら「この人は自分に同情してくれてる」とものの見事なまでに考え違いする。


 それが終わったら一気に高いお酒をたっぷりと飲ませ、納得させて店から出す。

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