ロマンス@南国
 これをやると、大抵この手の客は二度と来なくなる。


 誰も分かってくれないと思うからだ。


 あたしは自分の店で客同士がしおらしい話をするのを極端に嫌っていた。


「そんな話は、汚い焼き鳥屋かおでん屋で安酒でも飲みながらしてよ」と言いたいから。


 銀座のクラブはガードレール下にある飲み屋とはわけが違う。


 洗練された大人の空間なのだから。


 あたしは高見のことを思い出して、少し気分が悪くなった。


 目の前で滝には透明に近い、澄んだ水が流れている。


 あたしは喬と手を繋ぎながら、その光景をじっと見つめていた。


「彼にはそういった話はしないようにしよう」と思いながら……。


 あたしは一つの憂さを胸中に封印し、喬と一緒にい続けた。


 胸の中にある、互いを想い合う心はいつも一緒だし、口に出さなくても分かっている。


「好きだ」と。
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