ロマンス@南国
 あたしのような患者もとりわけ珍しいわけじゃなかった。


 それに病院のドクターはおろか、看護師や事務担当の人間まで皆丁寧だ。


 あたしは通院するたびに、疲れていた心が着実に癒されるのを感じていた。


 一回の診察料と薬代だけで一気に数千円が飛んでいくのだが、それはそれで構わないのだ。


 あたしは銀座の女帝である。


 数千円の金など、小銭のようなものだ。


 あたし自身、所定の薬をもらい、悩み事まで聞いてもらってそのぐらいのお金で済むのだから、これ以上いいことはなかった。


 あたしは喬には悩み事を一切話していない。


 彼が変に心配して、気を回しすぎるといけないと思っていたからだ。


 おまけにあたしはそういったことに関しては、ステルス――隠密を決め込んでいた。


 喬は確かにあたしの気の病に関して偏見など持たないだろう。


 彼は純良なのである。
< 92 / 119 >

この作品をシェア

pagetop