<短編>美しいさよならをしましょう
「俺、今日言いたいことがあって…。」
あなたはまたわたしに視線を戻して、真剣な表情で言った。
その顔にわたしは言い知れぬ不安を感じた。
あ、今日で終わりなんだ…。
冷静に受け止めなきゃ。
わたしは落ち着こうとした。別れを告げられることは、何度も何度も想像したことだった。
わたしの答えは決まって同じ。
"わかった。今まで楽しかったわ。ありがとうね。"
何度も何度も、頭の中でこの言葉を繰り返した。
だから、わたしの心は落ち着いてるはずなのに、現実で別れを告げられる一歩手前だと感じたら
大きな黒いなにかに心が覆われる感じがした。
体の震えが止まらない。
不安で顔は引きつっていることだろう。
「あのさ、「彼女が出来たの?」
「…え?」
何度も冷静に受け止める練習を頭の中でしたはずなのに、
現実では、わたしはあなたの言葉を遮った。
「だから、そうなんでしょ?わたしみたいなおばさんを相手するなんておかしいと思ったの。いいの、いいのよ。別れたいなら、こっちから別れてあげる。さよなら。」
「ちょっ…!」
止めようとして伸びてきたあなたの手を振り払い、わたしは部屋を出た。