<短編>美しいさよならをしましょう


あれから、
4日経った。
はじめのほうこそ何度もあった和幸からの着信は、もう今ではない。

忘れられるはずだった。
もう思い出しもしないはずだった。


和幸…

夕飯を作っている手を止め、ため息をつく。
すると玄関のほうから、物音がした。
その数秒後、リビングのドアが開く。
「ただいま。」
夫の翔太だった。

「おかえりなさい。」
精一杯の笑顔で、愛する夫を迎えたつもりだった。
夫はわたしの顔を見て、なにか言いたげだったが、無言で寝室に消えていった。


「もうすぐごはんできるから!」
寝室まで聞こえるよう、
大声で叫ぶわたしが滑稽に思えた。


今頃、寝室であの人と電話しているのだろう。
今日は会えないよ、ごめんね、と。

夫の浮気に気付いたのは2年以上前のことだ。



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