恋愛。

第一章

「梓ーっ！早よ帰ろ!!」

美術室の入り口からひょこっと顔を出してあたしを呼ぶのは,あたしの彼氏・琢弥。


「待ってー,すぐ行くっ!」


あたしはササッと荷物をまとめて急いで琢弥の元へ走る。

「んじゃ,帰ろっか。」
「うんっ。」

あたしたちは学校を出て,通学路をゆっくりと,他愛のない話をしながら歩いて帰る。


あたしの彼氏,今西琢弥はすごく目立ってる訳でもなく,でも暗かったりするわけでもないような人。

優しくて,強くて,好きなアーティストが同じで,部活が同じで,中学に入学した時に知り合った。

あたしとは性格とか趣味が正反対だけど,でもどこか似てるとこがあって馴染みやすく,明るくて楽しいオーラがあるから話しやすい。


身長はあたしよりまだ少し低い。

友達は背が高い人じゃなきゃ嫌だって言うけど,あたしからしてみれば琢弥のそんなとこも好きなんだ。


「梓？梓ってば～!!」
「………えっ!!?」
「さっきから何回も読んでるやんか～！」
「あぁ…ごめん！ぼーっとしてた…。」
「別にいいけどさ…大丈夫？しんどいん？」

少したれた眉に,ウルウルの目であたしの顔を覗きこんでくる琢弥。

…ちょっと!!
やだそんな目で…。


あたしの心臓はバクバクガンガン壊れそうなぐらいに激しく跳び跳ねる。


「ちょっとー？梓ぁ？ほんまにしんどいんか!?」

あぁぁ…や、やばい。


「だ,大丈夫！ほんとにちょっとぼーっとしてただけだからっ!!」
「ほんまに？」
「うんっ！」
「ほんならええわ。」

琢弥の顔が視界から消えて,ようやくあたしの心臓は動きを静めていった。


ふう、と,ひと安心。


付き合ってからもう5ヶ月も経つのに,あたしは琢弥にまだ慣れない。