キミが大好きだから〜陽菜へ〜
その話は社長から何回も聞いてる。


今まで一切顔出しナシのシークレットアーティスト?haruが俺のもうひとつの顔であり、『仕事』でもある。


今回企画された大手化粧品メーカーとの仕事は俺もワクワクしてるよ?


けど、今から一気に自由がなくなっていく気がして、俺はスタジオのドアノブを握ったままため息をついた。




…その時なぜか浮かんだのは真っ赤な顔して恥ずかしそうに笑ったあの子の顔だった。


自己紹介でカムなんてドジすぎるよな。


また思い出し笑いをしそうになって、今度は意識を引き戻す。


なんでまた思い出したんだろう……?



肝心の名前をほとんど覚えていないな、そういえば。

自己紹介だったのに、俺も結構マヌケだ。


今度はこらえきれずに思わず笑いが出てしまった。


そして携帯をとりあげ、発信ボタンを押した。


「藤島ですけど…今夜の新歓コンパ…参加でお願いします」


相手のゼミ長は俺の参加の電話にかなりビックリしてたみたいだけど。


意味もわからずうきうきした気分で俺はピアノに座ったんだ。
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