キミが大好きだから〜陽菜へ〜

「もしかしてそれはあのスキャンダルすり替え事件のことがあったからだろう、ってそれくらいにしか思ってなかった。けど・・・」



そこで小畑さんは再びカメラを下ろし、チラッと後ろを見やってから小さく息をついた。


「どうも、おかしいことにすぐに気づいたんだ。あいつには2年前の自覚なんてまったくない、って。で、俺なりにいろいろ調べてみたら・・・いろんなことがわかったんだ」


そう言って、小畑さんは俺を見てカメラを構えた。



「アーティストとしてのharuを俺はもっともっと知りたい。今までたくさんのものを背負ってきた歴史はきっとそこにあるはずだから。だから今回この仕事を受けて飛びつかせてもらったんだ」



ごめんな、いろいろしゃべりすぎた・・・



と言って、小畑さんは涙を隠すようにうつむいた俺を見て構えたカメラを外した。



「俺は、その事件を知って、haruのファンになったんだ。お前の作ってた曲も全部聴いたぜ」


そうやって少し照れくさそうに笑う小畑さんの方を俺はまだ見れなくて。


小畑さんは続けて話した。



「ゆずはすごくいい子だよ。なんとかしてやりたい、って思うんだけどな・・・」



小畑さんがまた後ろを振り返る。



きっともう撮影が終わったんだと思ったんだろう。



水島さんが手をふって、陽菜は軽く頭を下げた。



遠くてよかった。



きっと静かに流れる涙には気づかれない。



小畑さんは、まだ撮影を続けるふりをしてくれてる。



うつむく俺を。


涙をこらえる俺を。



カメラのシャッターの降りる音はその後一度も聞くことはなかった。














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