紺碧の地図
◆空の涙
助けなきゃ。
炎に呑まれ、崩れ落ちるお店を見て、そう思った。
そう思った瞬間、足が勝手に動き出していて。
庇うことしか、私には出来なくて。
震えるこの子を抱きしめて、私はぎゅっと目を瞑った。
…もうダメだ、って覚悟した。
―――なのに。
「…な…ん、で…?」
炎に包まれたのは、私じゃなかった。
私の瞳に映るのは。
「―――っ…」
「ゼンッ…!!」
苦痛に顔を歪めた、ゼンだった。
「やだっ…、ゼン…!」
小さな男の子は、私の腕の中で気を失っていた。
…でも、どうして?
どうして私じゃなくて、ゼンが…?
「…早く、その子供を安全な場所に…」
店の残骸に埋もれ、炎に包まれているのに、ゼンはいつもの口調でそう言った。
私の瞳に涙が溢れ、静かに頬を伝った。