紺碧の地図
複雑な気持ちのまま、私はまた視線を手元のパンに戻した。
「…食欲ないの?」
「!?」
あまりに突然声をかけられたことに驚いて、私の手からパンがこぼれ落ちる。
当たり前のように私の隣の椅子に腰掛けた人物は、不思議そうに私の顔を見た。
「…何」
「え、あ…食欲、あるよっ?」
ゼンが隣に来たことで、私の脳内は笑えるくらいパニックになった。
不自然に裏返った声に、ゼンは眉をひそめる。
「…さっきから、ぼけーっとして一向に朝食減ってないけど」
「そ、そんなこと…」
ないよ、と言おうとしたけど、できなかった。
自分のお皿を見下ろすと、今床に落としたパン以外は、全くといっていいほど手がつけられていなかった。
続きの言葉を失った私は、どうしようかと目を泳がせる。
「食欲はあるけど…でも…」
「…別にいい」
「へ?」
「具合が悪いとかじゃないなら、無理して理由言わなくてもいい」