月影
「けど?」


「あたしキャバやってんだけどさ。
売り上げヤバい時は、助けてくれるんでしょ?」


「ん、オッケ。」


「あと、首絞めたりとかしないで。」


「ヨガってたくせに?」


「…苦しんでたんだよ。」


「あーっそ。」


まるで大した興味はないとでも言いたげな顔は、僅かに優しげなものに変わった気がした。


あまり感情を表に出さないってゆーか、本当に幽霊のように、何を考えてるのかわかんない人。



「名刺、出せよ。」


そう言われ、あたしはベッドの下に投げていたバッグを持ち上げて、その中から名刺入れを取り出し、その一枚をジルへと渡した。


あぁ、この店ね、と言って一瞥しただけの彼は、あたしの渡した名刺を無造作にベッドサイドへと置くだけ。



「もちろん、指名でね。」


「はいはい。」


本当に、ジルが来てくれるとは思えなかった。


それ以前に、“飼われる”ってこと自体、何かいまいちピンとはこないんだけど。



「ジルってさ、見るからにヤバそうだよね。」


「お前は見るからに水っぽいよ。」


「…悪かったですねぇ。」


「まぁ、俺の仕事はロクでもねぇよ。
無駄に顔広いだけだ。」


あっそ、とあたしは言った。


さっきのコワモテが敬語使ってたことだし、あんま良い人種ではないのだろうとは、暗に想像がつくから。

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