月影
どれだけ離れてたとしても、煙草を吹かすジルの体の上に頭を預けていると、彼の手の平に撫でられることは、何も変わってはいなかった。


その心臓の鼓動に耳を傾けながら、自然と安堵していく自分が居る。



「シュウね、あたしの弟なんだよ。
血の繋がった、実の弟。」


ジルは何も聞いて来なかったけど、あたしはそう口を開いていた。


もしかしたら聞いてほしかっただけなのかもしれないけれど、今更隠すことでもないだろう、と思ったから。


アイツの病気のこととか、家族のこととか、あたしの気持ちとか。


心配してる反面、憎んでることも確かだったし、両親に対しても、きっとあたしは我が儘にも愛されたかったのだろうということ。


たどたどしいばかりで上手く伝わったのかはわかんなかったけど、ジルはちゃんと聞いてくれた。



「なぁ、レナ。」


「ん?」


「お前の弟が見つかるまで、また今日みたいなこと何度もあるかもしれねぇけどさ。
絶対、お前ひとりでは行かせねぇからな。」


そんな力強い言葉に、少しばかりあたしは口元を緩めた。


ジルはあたしの行動や気持ち、そんなの全部を縛ることもなければ、絶対に否定することもない。


ただ、ちゃんと俺に吐き出せよ、と言ってくれた。


こんな関係の何かが変わったわけでもないし、ましてやあたし達は恋人同士って甘いものになったわけでもない。


それでもあたしに向いてる真っ直ぐな瞳の中に、ジルの気持ちがちゃんと映し出されてる気がしたんだ。



「ジルはさ、家族居んの?」


「居ることは居る、かな。
うちはちょっと複雑だし、関係も希薄だから、それぞれのことはあんまわかんねぇんだ。
多分元気でやってんだろうけど、別にその程度だから。」


本当に、自分の家族というものに取り留めて興味の欠片もなさそうな顔で教えられた。


ジルにはあたしが居てあげるよ、とはさすがに言えなかったけど、再びその胸に顔をうずめると、困ったように笑った瞳が落ちてきた。

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