月影
「良いよ。
それに、葵が心配してくれてるし、一緒に出勤するから。」


ジルは何か言いたげな顔をした。


そして少し迷いを含んだ瞳のままに、口を開く。



「…昨日の、ことだけどさ。」


「わかってるよ。
誰にも、何も言わないから。」


あたしが笑うと、ジルは諦めたような顔をした。


大切な友達に嘘をつくことになったとしても、あたしは昨日見たこと何もかもを、隠さなきゃならないんだ。


ジルの去っていく車を見つめながら、笑顔を崩すと少しばかり悲しい気持ちになってしまう。




シュウと同姓同名だったあの遺体は、不良グループのトラブルに巻き込まれ、やはりむごいことをされて殺されたのだと、数日後にニュースで聞いた。


身元も、ちゃんとわかったのだと言う。

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