月影
「レナ、お前聞いたぞ?」


席へと戻ってみれば、ムスッとしたように腕を組んだ岡ちゃんの姿。


さすがに今の話は聞かれてなかったとは思うけど、じゃあ何の話だろうと思ってしまう。



「血吐いて倒れたって?
体が資本の仕事なんだし、自己管理くらいちゃんとしろ。」


あぁ、そのことか、と曖昧に笑った。


数日前のあの早退に至った出来事は、何故か尾ひれがついて回っていた。


おまけにどこで聞いたのか知らないが、彼はご立腹なご様子だ。



「…ごめん。」


「まったく。
お前は娘みたいなもんだって言ってんだから、俺の気苦労を増やすなよ。」


相変わらずの娘のような扱いに、少しばかり気恥しくもなってしまう。


こういう時のこの人の口調はいつも、本物の父親みたいだから。

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