月影
「ねぇ、岡ちゃん。
変なこと聞いても良い?」


「ん?」


「岡ちゃん、娘さんふたり居るじゃん?
ひとりがもし、病気になったりしたらさ、どうする?」


突然のあたしの質問にも、一度眉を寄せたものの、岡ちゃんはその真意を聞こうとはせずに、考えるように視線を宙へと投げて渋い顔をした。


カラン、と彼のグラスの氷が溶け、あたしは唾を飲み込んだ。



「何しても治してやろうと努力するだろうなぁ。
金が必要ならさ、借金してでもかき集めるんだろうし。」


「じゃあその間、もうひとりの娘さんはどうするの?」


「…レナ?」


さすがに突っ込んで聞いてしまい、ハッとした。


岡ちゃんは今度ばかりはその意味を探るような顔をしていて、思わず言葉を探してしまう。



「いや、友達がね?
何かそんなんだったらしくて、寂しい想いしてた話聞いたから。」


苦しい言い訳だったろうか、と彼を一瞥した。


だけども岡ちゃんは腕を組んだそのままで、長くため息を吐き出すのみ。



「人間はな、大丈夫だと思ったモンはどうしても後回しにしちまうんだよ。
ましてや片方が病気してたら、そっちまで気が回んなくなるのは当然だろ?」


「…うん。」


「その友達も家族も、大丈夫だよ。
病気が治ったら、また良い関係に戻れるはずだ。」


岡ちゃんの家族ならば、きっとそうなのだろう。


でも、シュウの病気は治ることはないし、あたし達家族だってもう、昔のようには戻れない。


言ってしまいたかったけど、でも結局、何も言えないまま。


あたしが今、優先させなきゃならないのは、一体何なのだろう。


シュウも、家族も、葵も、ジルも、みんな心配だし、どれも後回しには出来ないよ。

< 116 / 403 >

この作品をシェア

pagetop