月影
「レナは医者じゃねぇし、その家族にはどうしてもやれねぇけど、友達は友達だろ?
辛い時は、ちゃんと傍に居てやるのが大事だぞ。」


あたしの傍には、誰が居ただろう。


誰か居たら、シュウや家族を恨んだりしなかったのだろうか。


皮肉なことに、キャバでレナとして働き出して、やっと本当の友情を知った気がした。



「岡ちゃんの友達がそんなんだったら?」


「笑って大丈夫だ、って言ってやるよ。
人間、嘘でも気休めの言葉で元気になれることはあんだからな。」


豪快な性格の岡ちゃんらしいな、と思った。


この人があたしを選んでくれて本当に良かったと思ったし、こんな風にもなりたかった。



「…あたし、やっぱ岡ちゃんのとこに生まれたかったなぁ。」


「でもな、生まれてなかったからこそ、そう思えるかもしれねぇんだぞ?
レナがどんな環境で育ったかは知らねぇけど、愚痴や恨み辛みを言い始めると、それに飲み込まれちまうんだ。」


言葉は胸に、あたたかく沁みた気がした。


ジルも葵も必死で闘ってるんだと思うし、あたしは改めて、傍に居てあげたいとも思い直した。



「お前はそうやって考えすぎるから血吐くんだよ。
良いことではあるけど、肝心のお前が倒れたら友達の傍に居てやることも出来ねぇだろ?」


「そうだね、ありがとう。」


笑うと、彼はまるで父親のようにあたしの頭をポンポンとしてくれた。


癒すためのキャバ嬢なはずなのに、何だかあたしの方が元気をもらった気がして、やっぱ岡ちゃんには敵わないと思う。



「あとな、女は男に頼るとこ頼らなきゃダメだぞ?」


「結局彼氏の心配?」


「馬鹿、お前の心配だ。
友達も良いけど、自分のこと第一に考えろよ?」


大丈夫だよ、岡ちゃん。


自分を大事には出来ないけど、大事な人は大事にしたいと思えるようになったから、今はそれで十分なんだ。

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