月影
予想は出来たはずなのに、そんな途切れ途切れに紡がれた言葉に、胸が苦しくなってしまう。


絶対に愚痴らずにひとりで抱え込んできた彼女の、その涙が痛々しい。



「いつ?」


「…昨日っ…」


「話し合って?」


コクリと彼女は頷いた。


なら、もうどうすることも出来ないのかもしれない。


散々壊れないように頑張った彼女達ふたりの、それが出した結論なのだから。



「…ごめっ、レナがジルさんと一緒なの見てっ…あたしっ、思い出して羨ましくなってっ…」


「良いよ、言わなくて。」


言葉が辛くて、あたしはそれを遮った。


元の形に戻ることの出来たあたしと、壊れてしまった葵。


必死だったからこそ、余計に辛かったろうことは、言わなくてもわかってる。



「今日、うちおいでよ。
ここじゃ話せないし、送迎断ってタク呼ぶから。」


頷くだけの葵を確認し、あたしはタクシーを呼ぶために携帯を取り出した。


ちゃんと聞いてあげてれば、少なくとも彼女はこんなにも泣くことはなかったのだろうか。


大事な友達だけど、あたしはこんな時の接し方さえ知らないのだから。


それでも岡ちゃんの言葉通り、傍に居てあげたいと思う。



「…ごめっ、レナっ…」


「そんなの良いんだよ。」


グスッ、グスッとすすり泣く声が、誰も居ない更衣室に響き続けた。


今日一日、何事もなかったようにあたしに笑い掛けてくれてた葵を思い出すと、胸が痛い。

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