月影
問うたあたしに、彼女はコクリと頷き言葉を続けた。



「好きだったんだよ。
あたしのこと大事にしてくれてるのもわかってたし、ホスト辞めろとも言えないし。」


ましてやあたし達は、同じ夜の世界に身を置く住人だ。


初詣に4人で行ったことを思い出し、ふたりのはしゃいだ姿を手繰り寄せてみれば、他人のあたしでさえも羨ましくなるほどだったのだから。


もしかしたら、お守り買いまくったことが悪かったのかなぁ、なんて。



「でもさ、信じたいけど段々何もかもを疑っちゃうじゃん?
そういうのにも神経すり減らしてたし、我慢してたとこもあった。」


「…うん。」


「なのに、さ。
昨日も同じことあって、あたしね、あぁ、もうダメだなぁ、って。」


そう言った瞬間、彼女は涙ぐむように唇を噛み締めた。


先に壊してしまったのは、葵だったのか、それとも聖夜クンだったのか。


結局何も言えなくて、重たい沈黙の帳が下りる。



「…葵から、切り出したの?」


「わかんない。
でも、あたしからじゃなかったとしても、いつかこうなってたと思う。」


信頼関係なんて目には見えないし、一度崩れてしまえば元に戻すことは容易ではない。


だからあたしもジルも、関係性を明確にはさせないのだろう。


だってそうしたら、壊れてしまうのがわかってるから。


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