月影
「葵は悪くないよ?」


ホスト、って仕事が悪いのかもしれない。


でも、人は誰でも癒されたいし、需要と言う名の求める気持ちがあることも当然で、結局は目に見えないものに怯え、目に見えないものを壊してしまったのだろう。


そんなことが、また悲しかった。



「今日さ、泊まっていきなよ。」







明け方近く、やっと葵は眠りに落ちた。


頬には涙の痕が残ったままで、散々泣き続けて眠った、と言えば良いだろうか。


痛々しい姿に、結局あたしはロクな言葉を掛けてやることも出来なかったし、そんな姿を前に、大丈夫だと言って笑い飛ばせるほどの力もなかった。


大事な友達にですら何も言えなかったあたしが、キャバなんか続けてて良いのだろうか、と頭の片隅にもやもやとしたものが残る。


ひとつため息を零しあたしは、そっと携帯片手に部屋から出た。



『…レナ?』


何だか久しぶりに、声を聞いた気がする。


明け方とは名ばかりの、まだ薄暗い空色に吐き出した吐息は白く、電話口の向こうを想像した。


< 122 / 403 >

この作品をシェア

pagetop