月影
「ホントさ、レナの前でアイツのこと庇うわけじゃないんだけどな?」


そう、一度前を置きをするように言い、拓真はあたしの顔を見た。



「でも、太客切れて焦ってたの見てたから、そんなの前に葵ちゃんのこと考えろー、とか言えないんだよ、俺もさ。」


「わかってるよ、ちゃんと。
それに別に、拓真のこと責めてるわけでもないし。」


言ってやると、彼は少し安心したような顔になった。


何かこう、やっぱり笑うと犬みたいな顔になって可愛いなぁ、とか思うんだけど。



「俺までレナに嫌われてんのかと思った。」


「あたしがホスト嫌いだから?」


「…まぁ、うん。」


拓真の気持ちは、あたし自身、気付いてないわけじゃない。


それでも何も言われないし、きっとあたしもそれに甘えているのだろう。


てか、やっぱり色恋するホストの言葉ってのを、信じ切れない部分も残されているのだろうけど。



「拓真は友達だよ。」


決して突き放すようでもなく、受け流すように笑って言った。


こんな風にサラリと言えるのはキャバやってるからだろうけど、そんなことが少し悲しくもなる。


拓真は「おう。」と返すだけで、また煙草を咥えるようにして口を閉ざした。


お互い、どこか探り合うような会話に、何もかもが、少しずつ形を変えゆくことを思わされる。



「あのさ、レナ。」


「ん?」


「店来なくても良いから、また一緒に飯食おうよ。」


「…口説いてんだぁ?」


「口説いてまーす。」


ははっ、と笑った。


今のあたし達は、きっとこんなので精一杯なのだろう、逃げているだけだってこともわかってる。

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