月影
ジルと会えない間、拓真の存在はやっぱり大きい。


それは否定出来ないけど、正直見たくない現実だとも思う。


ジルが居なかったとして、もし彼と付き合うことになったとしたら、葵のようになることもそれなりに怖かったのだろう。


関係性に名前をつけることは、やっぱり好きじゃない。


シュウを見つけることも出来なくて、定期的に入ってくるお母さんからの電話に萎えて、会えないジルを想った。



「レナ、拓真っちと会ってる?」


携帯を見つめながら腑抜けていたあたしに、葵がププッと笑って近づいてきた。


聖夜クンの話題はもちろんのこと、拓真の話題ですら彼女の前では避けていたのだけれど。



「あたしに気使わなくても良いから。
一緒に飲みに行くことはさすがに出来ないけど、ほら、ね?」


誤魔化された台詞に、あたしは曖昧にだけ笑って見せた。



「拓真とはさ、友達だよ。
葵も友達だし、みーんな友達。」


「…ジルさんも、友達?」


「うん、友達。」


笑って、ちゃんと言えてるだろうか。


一番無難な枠に収めながら、また逃げてる自分が嫌になる。


お客に色恋メール送って、込み上げてくる嗚咽を必死で押し殺した。


そういえばあたし、当分泣いてないんだなぁ、なんて思いながらまた、ジルのことを考えてしまう。


会えないことが辛いのかどうかですら、もうよく分かんなくなってきて、慣れてしまったことに悲しさを覚えた。


これが、ひとりで立つ、ってことなのだろうか。


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