月影
前にジルは、自分のことを“何でも屋”と言っていたことがある。


命令されたらどんな汚いことでもするのだ、と。


その証拠に、殴られたような傷を作っていたこともあった。


つまりは彼はいつも、その身を危険に晒しているということ。


“あの人”に逆らうことはなく、それでも、どこか遠くへ逃げたりはしない男だ。



「汚れた仕事はさ、なるべくなら俺だけやってりゃ良いんだよ。
多分、俺は土壇場で切り捨てられんだろうけど、まぁ、それで金貰ってるしな。」


そんな、妙に潔い言い方と、そしてやっぱり悲しいほどの現実を知った。


何より彼は、素っ気ないだけで本当は、全ての人に優しいのだろう、だからこそ、苦しんでいるんだと思う。


それがジルの生き方だ。


彼は絶対、飼い主の手を噛むような真似なんてしないだろうし、ギンちゃんを裏切ることもない。


それがわかってるからこそ、辛くもあった。


一緒に居ないと、不安だった。


でも、一緒に居ることもまた、不安だった。


結局のところあたし達の関係は、肌を重ね合わせなければ成立しないのかもしれない。


そんなことが、また不安にもなる。


目的地も、出口も見えないループを、ただラットのようにくるくる回ってる感じ。


ジルが仕事を辞めることはないし、シュウが見つかることもない。


だからあたしもこのままだし、もしかしたら一生こんなままなのかな、とも思う。


拓真とだったらまた違うのかな、って思考が不意に頭に浮かび、そんな自分自身が一番驚いていた。


ジルも拓真も、どっちも違うけど、それでもどっちも好きだった。


どっちもが違う部分であたしの生活に溶け込み過ぎて、少しばかり怖くなっているのかもしれない。


考えれば考えるだけ、憂鬱になる。

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