月影
「居ないんだよ、もう、この世に。」


「……え?」


「花穂はさ、5年前に死んだんだよ。」


静かに静かに紡がれた、悲しい過去。


だから、と彼は、あたしに向けて小さく口元を緩めた。



「お前に泣かれんの、結構辛い。
誕生日祝えなかったの、マジで謝るから。」


ごめんな、と耳元に落ちる声。


ただ、頭の中が何ひとつ整理出来なくて、それでも視線を逸らせなくなる。


拓真という太陽から目を逸らし、ジルという月を見上げるように、悲しげな瞳にまた、一筋の涙が零れ落ちた。



「…ずっと、何やってたの?」


「毎年この時期になるとさ、アイツのこと思い出しながらぶらり旅?
でも今年は頭ん中お前のことばっかでさ、挙句、アイツの親にまでもう十分だよ、とか言われるし。」


長くため息を吐き出しながら、そうジルは、あたしと指を絡めたそのままに、同じようにフローリングへと寝転がる。


ふたり、真っ暗な中で天井を見上げながら、寒ささえも忘れゆく。



「どうしたものかなぁ、なんて思いながら、またフラフラしててさ。
そしたらお前の誕生日過ぎてたんだもんな。」


「ダサいね。」


「マジ、すげぇダセェよ、俺。」


「今日がお前の誕生日だー、とかは言ってくれないの?」


「言ってほしいなら言うけど。
さすがにそりゃ無理だろ。」


「…何で?」


「だってお前の生まれた日だろ?
他は適当でも良いけどなぁ。」


「キリストの誕生日だって別の日に変えたくせに?」


「そりゃ、あれはまた別だって。」


何でこんな風に普通に話してんのかなぁ、とは思う。


それでもきっと、これがあたしとジルなのだろう。

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