月影
「けどさ、当時の俺はやっぱ花穂が死んで悲しみのどん底ってヤツで。
喧嘩ばっかしてたし、正直死んでも良いと思ってたんだ。」


そこまで言って、ジルは一度言葉を飲み込んだ。


そして深く吐息を吐き出し、再び視線を宙へと投げた。



「ある時、ヤクザ殴ってそこからちょっと大変なことになって。
殺されるんだろうなぁ、って思ってたんだけど、あの人が間に入る形で、丸く収まったんだ。」


また“嶋さん”だろう。


この人をこの世に繋ぎ止め、飼われてる、と言わせた人。


命を拾われたことで、ジルは死ぬことも出来ず、ただ毎日を繰り返している。


それは、喜ぶべきことなのか、どうなのか。


あたしはもしかしたらもう、ジルが死んでももう後を追うことは出来ないのかもしれない。


過去を知ってしまったからこそ、花穂サンと同じ場所に行くジルのために、一緒に死んであげることはもう出来ないだろう。

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