月影
「花穂とお前はさぁ、正反対なんだよ。
アイツは毎日楽しそうに生き生きしてたけど、お前は俺と似てるっつーか。
放っておいたら消えちゃいそうでさ、見てると不安になんだよ。」


心の真ん中を握り潰されてる感覚に、気を抜けば、やっぱり泣き出してしまいそうになる。


ジルは自らの腕で顔を覆うように隠してしまい、あたしは鼻腔の奥につんとしたものを感じた。



「アイツの親がさぁ、言うんだよ。
あの頃は正直、キミのことを恨んでいたけど、もう5年になるし、これからは花穂のためにも自分の人生を大事にしてくれて、ってさ。」


泣いちゃダメなはずなのに、涙が零れた。


不意に、前にジルが、喧嘩して一日を終えるのは嫌だと言っていたことを思い出す。



「花穂のこと裏切ってんのかなぁ、とも思うんだけど。
でもアイツは人として出来たヤツだし、馬鹿みたいに俺の幸せ願うタイプなんだよ。」


あたしはきっと、ひっくり返ったって花穂サンのようにはなれないだろう。


ジルにはあたしみたいなのじゃない方が良いってわかってるのに、未だに繋いだ手を離せない自分が居る。



「アイツの写真、一枚もねぇんだ。
あれだけ一緒に居たのに、一枚もねぇの。」


だから、とジルは、俯いたままのあたしに視線を投げた。



「花穂の顔より、お前の顔ばっか思い出すんだよ。
俺はもう、あの頃の俺じゃねぇし、生きてるお前のこと大事だと思ってんの。」


覆っていたはずの腕の隙間から頼りない瞳を投げられて、涙を零しながらもあたしは、首を横に振ることしか出来なかった。


ジルもあたしも、もうお互いがお互いの中に溶け込み過ぎて、切り離せなくなってるんだ。


だからこそダメだってわかってるのに、同じだからこそ惹かれ合う。

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