月影
「誕生日、マジで悪かったと思ってる。」


あぁ、そんなこともあったな、と、おぼつかない思考の隅で思った。


同じように体を起こすと、ジルは煙草を咥え、服の袖であたしの涙を拭ってくれる。


そんな優しさに、また胸が締め付けられた。



「…命日、いつだったの?」


「2週間くらい前。」


「…そっか。」


「お前の誕生日は?」


「先週だよ。」


さすがに一緒じゃなくて、安堵している自分が居る。


ため息が沈黙に溶けて、ふと窓の外へと耳を傾けてみれば、雨のまぶる音が僅かに聞こえていた。


まるで、世界も同じように泣いていると錯覚してしまう。


他に何人女が居ても良いと思ってたはずなのに、ジルの中に存在している花穂サンが怖かった。


大事とか大事じゃないとか、あたし達は結局、好きとか愛してるよりもずっと曖昧な言葉でしか関係を括れないのだろう。


それはとても、悲しいこと。

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