月影
「見てよ、このネイル凄くない?」


そう、ニヤニヤとした顔で葵が近付いてきた。


結局あれから、悶々としながら仕事に来たわけだが、そんな彼女の顔にまた疲れに襲われてしまうんだけど、お構いナシの葵はそういえば、と話を変えた。



「新人入ったってマジ?」


「うん、昨日体入してた子だよ。
何か、そのまま今日から働くんだってさ。」


「へぇ、そうなんだぁ。」


葵は店長の方を一瞥したが、大した興味もなさそうだ。


まぁ、この仕事なんて入れ替わりが激しいし、昨日まで働いてた子が突然居なくなることも、またその逆も珍しいことではない。



「どんな子?」


「知らない。
あたしもあんま見てないし。」


そう言ってふたり、フロアの隅に目をやると、キャバ未経験っぽい子が黒服クンに色々と教えられていた。


何だか懐かしいなぁ、と思いながらも、やっぱりあまり興味はないのだけれど。



「葵、レナ!
ちょっとこっち来てくれ。」


まだそんな姿を目で追っていると、視線に気付いたかのように店長が、座り込んでいるあたし達を呼び付けた。


ふたり、嫌な顔を見合わせたものの、笑顔を作り、呼ばれた方に向かう。



「新人の彩だ。
当分はお前らのヘルプにつけようと思うから、よろしくな。」


マジ勘弁、と本気で思った。


ジルの心配しながらお客の相手だけでも大変なのに、その上新人のことまで気を回さなきゃいけなくなるのだから。


店長の半歩後ろで頭を下げたのは、ちょっと幼さの残るモテ系の顔した彼女。


おまけに愛想も良さそうで、あたしとは大違いだと思う。

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