月影
あたし達は固定客が比較的多く、安心して任せられると店長は判断したのだろう。


歴は短くはないし、あたし達も中堅と呼ばれる部類に入るのだろうけど、それにしてもげんなりしてしまう。



「あのっ、色々教えてくださいねっ!」


彼女は高卒で、18歳らしい。


何でも上司が嫌でバイトを辞めてすぐ、興味のあったこの世界に入ったのだと、聞いてもいないのに語ってくれた。


それで5月のこの時期なのか、とは思ったけど、だからどうしたと言う程でもない。


軽く挨拶を交わし、また彩は黒服に色々と教えられていた。


それからサキちゃんもやってきて、みんなで懐かしむように新人の頃の話に花を咲かせたのだが、あたしは心ココにあらずだった。


今日もオッサンに太ももを撫でられ、ニイチャンとエロトーク。


あたしは相変わらずの馬鹿キャラを貫きながら、温泉行きたいなぁ、と不意に思う。



「レナさん、ご指名です。」


ほいほい、と顔を向けた瞬間、驚いて目を見開いた。


岡ちゃんが、珍しくひとりで来店してくれたのだ。



「久しぶりだね。」


「そうだっけ?」


テーブルへと案内すると、見計らったように先ほどの新人、彩がヘルプにつけられた。



「あ、この子新人なの。」


一応言うと、岡ちゃんは彼女を一瞥した。



「彩です。」


「あぁ、まぁ、頑張れよ。」


「はい、ありがとうございます。」


社交的なだけの、当たり障りのない言葉が交わされる。


まだ手つきが怪しい彼女は懸命に水割りを作り、あたし達の前に置いた。

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