月影
「新人かぁ。
懐かしいなぁ、レナの新人だった頃。」


「…やめてよ、恥ずかしいじゃんかぁ。」


誰にでもあることだろ、と言った彼は思い出したように笑いながら、彩の作った水割りに口をつけた。



「コイツ、何でこんな仕事やってんだろうなぁ、って思ったよ。」


「…じゃあ何でそんなのを指名してくれたの?」


「何となくだ。
その理由が知りたくなったからな。」


「変なのー。」


笑うと、やっぱり彼はいつもの如く豪快に笑った。


少し緊張していたのだろう彩も、幾分それもほぐれたような顔で横で小さく笑っている。


シュウを探さなければという一心でこの世界に飛び込んだけど、今はジルの心配ばかりでそれどころではないのが正直なところ。


結局、自分自身、何をしているのかがわからない。



「俺はどの店でも、少し変なのを指名するんだ。」


「…何で?」


「その方が面白いからだ。
普通に可愛かったり、普通に喋れるヤツなんかに興味ねぇんだよな。」


やっぱり岡ちゃんは、あたしと似てどこか変なようだ。


笑いながらも、ふと頭に浮かぶのはジルのことで、振り払うようにあたしは、お酒を飲んだ。


人のことを気にしちゃうジルだからこそ、背負わなくても良いものを自ら背負い込むくせがあることを、あたしは知ってるから。


大事だけど、心の中にはお互い、別の人の存在する場所がある。


あの日以来、ジルとの距離の取り方も、接し方もわからないのだ。


ただ、優しくされるのは、余計に苦しい。


ジルが死ぬかもしれないと思うと、花穂サンのことを思いながら、前にも増して恐怖に駆られるんだ。

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