月影
「あのっ、レナさん大丈夫ですか?」


弾かれたように顔を向けてみれば、心配そうな彩の姿。


トイレの洗面台に両手をついてへバってるあたしは、余程顔色が悪く見えているらしい。


まぁ、そりゃそうだろう、だって岡ちゃんが帰ってしまい、あれからまた、別のお客に煽られて悪酔いしてしまったのだから。


不安とか恐怖心を誤魔化すためにお酒に逃げるのは、あたしの悪い癖だ。


そんなことわかってるはずなのに、なのに止められないんだから。



「ごめん、気にしないで?
こんなのいつものことだし。」


「店長、呼んできます。」


「良いって。
どうせ怒られるし。」


良い子だなぁ、としみじみ思う。


だけどもすぐに、花穂サンもこんな感じだったのだろうか、と思えばまた、吐き気に襲われた。


あの日以来、もう何度、こんな無意味な堂々巡りを繰り返したことだろう。



「この仕事ちゃんとやるんならさ、あたしは悪いお手本だから。
葵や蘭サンとかと仲良くしてた方が、良いことあると思うよ。」


「…レナ、さん…」


キャバ辞めようかな、なんて最近では考える。


こんなんじゃジルより先に死んじゃいそうだし、どうせこんな仕事してたって、シュウは見つからないのだから。


未だ心配そうな顔を残し、あたしはフラつきながらトイレから出た。


あたしが死んだらジルは、花穂サンと同じくらいに想ってくれるだろうか、なんて馬鹿なことを考えながら。


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