月影
結局、サキちゃんに誘われるままにあたしは、クロスにやってきた。


最近のサキちゃんはホスト遊びにハマっているようで、あたしもクロスならと、たまに付き合ってあげたりもする。


何でも、ナンバーワンのトオルってのが格好良いんだとか言っていたが、まぁ、自分で稼いだお金をどう使おうと勝手だし。


ただ、お金をつぎ込むようなことだけはしないでほしいな、とは思う。


やっぱりあたしは基本、ホストが嫌いなのだろう。



「何か俺、最近よくレナに会ってる気がする。」


「あたしもよく、人んちの前とか道端で拓真に会ってる気がする。」


「いやそれ、本物の犬じゃん!」


「あれぇ?
拓真だと思ってたぁ。」


「こらこら。」


何にも考えずに話せる男だ。


なのに何で、何も考えずに好きにはなれないのだろう。


サキちゃんはトオルと居る時、憧れの芸能人と話しているような気分になれて楽しいのだと言っていた。


夢を売る場所で素直に夢が見られるなんて、羨ましいとしか思えない。


体が気だるくて、頭がボーッとして、酒に呑まれるとはまさにこのことなのかもしれない。


それなりに楽しくて、そしてそれなりに虚しいとも思う、こんなひととき。



「ねぇ、拓真って泣くことある?」


「……え?」


「悲しい時とか、どうしてるのかなぁ、って思って。」


そう言うと、彼は考えるように視線を宙に投げた。


あたしもジルも生きるのが下手で、負の感情を上手く処理することも出来ず、自分の中に溜め込んでしまうくせがある。


だからこそ、拓真はどうしているのか聞いてみたかったのかもしれない。

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