月影
カーテンの隙間から洩れる陽の光に眉を寄せると、別のぬくもりに包まれていることに気が付いた。


ジルが、あたしを抱き締めるようにして眠っているのだ。


最近のこの人は、とにかく昼夜を問わず、暇さえあれば我が家にやってくる。


多分、自分の家なんて、着替えに帰る程度のものだろう。


疲れた顔をすることも格段に増えたし、あたしを抱かないことだってある。


それでも決まって彼は、ここで眠りたがるのだ。



「ジル、起きてよ。
そろそろ出掛ける時間だよ。」


夜に生きるあたし達にとっての早起きってのはよくわからないが、それでも午前中と呼ばれる時間帯に、彼の体を揺すった。


揺すってみれば、もぞもぞと布団の中から手が伸びてきて、あたしはそこに、ミネラルウォーターを掴ませる。



「おはよ。」


昨日、突然に明日出掛けるぞ、と言われたのだが。


どこに連れてってくれるのかは知らないが、彼には準備と言うものがないらしい。


計画的に誘っておいて、無計画な男だと思う。


ジルは体を起こしたっきり頼りない瞳を投げたまま、「ご飯は?」と問うあたしの言葉を聞いてもいない様子で、憂鬱そうな顔をしていた。



「ねぇ、どしたの?」


「いや、何でもねぇけど。
つか俺、シャワー浴びてくるし、お前もその間に準備しとけ。」


そんな、当然のような態度と命令口調を聞きながら、仕事は大丈夫なんだろうか、なんて思ってみたり。


“強制捜査”の単語を聞いたっきり、あれからどうなったのかなんてわからないままだし、だからって聞けるわけでもなく、もう3週間以上だ。


お風呂場へと向かうジルの背を見送りながら、ひとつため息を混じらせた。

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