月影
「お前さぁ、シュウってヤツを探すんじゃねぇのかよ?
その前に死んでどうすんの?」


「だって、あの世で待ってた方が早いかもだし。」


「…は?」


「人間なんて遅かれ早かれ死ぬ、って意味だよ。」


シュウが山奥でひとり孤独に死んでる可能性だって、ないわけじゃないし。


アイツの病気はもう治らないんだって聞いたし、それならば、探すよりも待つ方が早いんじゃないか、と思った。



「お前、俺より先に死ぬなよ?」


ふと、耳に触れたそんな台詞に、ひどく驚いたのは言うまでもないだろう。


睨むような強い瞳に捕えられ、思わず息を呑むようにして、やっとあたしは「…何で?」と問うことが出来た。



「これ以上俺の人生をつまんなくさせんな。」


そう、あたしの髪の毛を梳く指先は、まるで美容師のように優しいものだった。


それは、こんなあたしでもジルの人生において少しは役に立ってるってことで、思わずヘラッと笑ってしまう。



「じゃあ今度、お店来て高いボトル入れてくれたら約束してあげる。」


「…営業かよ。」


「ダメ?」


「気が向いたらな。」


守られるとも限らないような約束は、果たしてどれほどの効力があるのかはわからなかった。


それでもその日までは、ジルが生きててくれる証のように感じたのだ。

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