月影
数日後、脂オヤジの村山サンが、本当に同伴してくれた。


おまけに高級なお寿司まで奢ってくれて、わーい、やったぁ、とあたしは、馬鹿っぽく喜んでやった。


嬉しいー、とか、こんなの初めてー、なんて言ってりゃ良いなんて、騙される方もどうかと思うけど。



「最近村山サン、レナちゃんにご執心だよねぇ。」


「…そうですね。」


「あたしも追い抜かれる日が近いかなぁ。」


「そんなわけないですよ。」


勘弁してくれよ、と本気で思った。


あたしは今、適度な上位をキープしていて、ここ数カ月、順位に変動はない。


だからこそ、これ以上上に上がればトラブルの元だと思うし、実際、ナンバーワンの蘭サンの笑ってる顔も刺々しく見えてしまう。



「あたしは蘭サンみたく美人じゃないですから。」


にっこりとそれだけ返し、さっさと彼女に背を向けた。


本当に滑稽極まりないし、鼻で笑いそうになったけど、よく堪えたな、なんて自分自身を褒めてやりたくなる。


女の嫉妬はハッキリ言って怖いものだし、それで辞めていった子だって何人も見てきた。


キャストの子たちは仲間っていうよりはライバルって感じで、お客以上に気を使う存在なのだ。


あたしはそんなことまで気を回してられるほど暇じゃないし、仕事なんて無難にこなしてりゃ、それで良いとしか思わない。


携帯を開き、適当に文章を作ってみんなに一斉に送信して、はい、営業完了、みたいな。


マジ、こんな女にお金を使うだなんて、ドブに捨てた方がマシだよ、と言ってやりたいくらい。

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