月影
第四章-崩壊-

生きること

あの日、あの後、真っ暗な海辺でジルの携帯が鳴り、あたし達は結局、日帰りで地元に戻ることとなった。


真夜中にあたしの家まで送ってもらい、一日だけの“デート”と呼ばれるものは終わったのだ。


そして翌日の夕方、シュウから電話をもらい、彼はいつになるかわからない最期の日まで、あの海辺の小料理屋で出来た家族と過ごすことを決めたという。


きっとその選択をするだろうことは分かっていたので、あたしは何も言わず、それを了承した。



「葵さん、今月すごいですよねぇ。」


「そうだね。
蘭サン追い抜く勢いだし。」


グラフを見つめながら感嘆するサキちゃんを横目に、あたしはどこか他人事だった。


葵はもしかしたら本当にナンバーワンになるかもしれないけれど、あたしはと言えば、シュウを無事に見つけた今、何をするにも気合いが入らない状態。


サキちゃんはホストと遊ぶために、彩は新人としてそれぞれ頑張っているというのに。


ハタチにもなったことだし、あたしもちゃんと、自分の将来や何かを、真面目に考えなければならないのかもしれない。



「レナさん、お願いします。」


黒服に呼ばれ、フロアへと向かえば、そこには岡ちゃんの姿。


珍しく従業員さんを引き連れ、来店してくれたのだ。



「おう、レナ!
酒ばっか飲んでるって聞いたから、叱りに来たぞ。」


「嫌だぁ、ごめんなさいぃ。」


そう言いながらも、岡ちゃんはいつも通り豪快に笑ってくれる。


あたしはその隣へと腰を降ろしながら、ジルや拓真とはまた別の安堵感に支配されていた。



「もう飲まないから、ドンぺリ入れて?」


「バカタレ。」


別にもう、シュウを恨む気持ちはないつもりだ。


それでもあの子が病気じゃなければ、あたしは疲れ切った背中しか覚えていないあの父親と、こんな風に酒を酌み交わしていたのかな、なんてことも思う。


手に入れたら、次のものを欲してしまうのは、人の欲だろうか。

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