月影
「岡ちゃんはさぁ、いつもながらに凄いよねぇ。
従業員さんいっぱいだし。」


「まぁ、この年だしな。
負けたくねぇ想いで今までやってきたから。」


彼はそう、あたしの差し出したライターの炎で煙草に火を灯しながら、感慨深げに煙を吐き出した。


何だかんだ言っても岡ちゃんは、人の上に立つ風格すらも漂っている。



「俺は人生の勝ち組になりたかったから。」


「…勝ち組?」


「一回しかねぇ人生だし、どうせ死ぬなら最後まで人に負けたくねぇ、ってな。」


そう言って、彼はあたしへと視線を向けた。


その瞬間、背筋が正されてしまう。



「良いことばっかでもねぇけど、半端が一番悪ぃ。」


多分、あたしのことを言っているのだろう顔に、思わず視線を落としてしまう。


ちゃんと続けるならば上を目指せ、そうでなきゃ辞めろ、ってことだろう。



「レナが何でキャバやってんのか知らねぇけど、選んだんならちゃんと勝負しろよ。
飲むことでしか稼げねぇ女なんか、価値はねぇんだ。」


岡ちゃんはそう、はっきりと言った。


もやもやとする世界を晴らすほどに、あたしの真ん中を射抜くような言葉。



「別にお前に強制するつもりはねぇけどな?
それでもいつまでも続けられる仕事じゃねぇんだし、辞めた時に何も残らなかったら、人生無駄にしたようなモンだ。」


「…うん。」


「まぁ、お前も年の数では大人の仲間入りだしよ。
遊びでこの仕事続けるのかも、そろそろ考えろよな?」


「…うん、わかった。」


そう言うと、彼はあたしの頭をくしゃっと撫でてくれた。


厳しいだけじゃないからこそ、人は岡ちゃんについていくのだろうと思う。


シュウを見つけるためだけに生きてきた人生だったけど、これからは自分のことも考えなければならない、ということだろう。

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